FC2ブログ

二種類の医者

2023.08.31 22:49|日々のこと
近頃、死について考える時間が増えました。
昨年末に義母、今年の春に愛猫タマと実父と、身近な存在を相次いで亡くしたせいもしれません。

義母と父の死に目には会えませんでしたが、タマは2ヶ月間の介護の末看取ることができました。
生後二か月で保護してから14歳で旅立つまで共に過ごした愛猫は、命の尽きる間際まで飼い主への愛情を
精一杯示しつつ、生き物が命を終えるまでの道程を身をもって教えてくれたような気がしています。
死に際して抗わず淡々と受け入れる。この一点に於いて人間は動物にかないません。彼らからは教えられることばかりです。

昔から私は自分が長生きしないような漠然とした不安がありました。
体も丈夫ではありませんでしたし、何より心の弱さが自分の寿命を短くするのではないかという危惧がありました。
死ぬとすればたぶん、消化器系もしくは婦人科系のガンだろうとも。
人生は苦しきことのみ多かりき、という諦念が常に私の心に暗い影を落としていました。

この年になって別の諦めの境地に至ったというか、若い時ほど苦悩しなくなりました。
人生の残り時間が少なくなるにつれ生への執着が増してきたということなのかもしれません。
それと、いくつかの本との出会いも大きかったです。それまでは得体の知れない存在であった死の正体が
これらの本を読んで少し掴めたような気がして、病と死への恐怖がいくぶん薄れたように思えたのです。

IMG20230831213702.jpg IMG20230827104922.jpg
(左)もう何度読み返したかわからない医療ミステリー「サイレント・ブレス」。副題に「看取りのカルテ」とあるように
主人公は回復の見込めない末期の患者専門の訪問看護クリニックに勤める女医。乳がん患者、膵臓がん患者、
脳梗塞で7年間植物状態の患者等の看取りを通して、真によりよき死とはどういうものかを問いかけます。

著者は現役の終末期医療の専門医なので内容は非常にリアルながら、女性らしい繊細な描写で抵抗なく読み進められます。
印象に残る場面は多々ありますが、病気を治せない医師に存在価値はあるのか?と苦悩する主人公に向けた
上司の医師の言葉がとりわけ深く心に刺さりました。

医者には、死ぬ患者に関心のある医者と、そうでない医者の二種類がある。医師にとって死ぬ患者は負けだ。
だから嫌なもんだよ。でも、人は必ず死ぬ。今の僕らには負けを負けと思わない医師が必要なんだよ。
死ぬ患者も、愛してあげようよ。治すことしか考えない医師は治らないと知った瞬間、その患者に関心を失う。
だけど患者を放り出すわけにもいかないから、中途半端な治療を続けて、結局、病院のベッドで苦しめるばかりになる。
これって、患者にとっても家族にとっても、本当に不幸なことだよね。

患者が置き去りにされがちな現代の医療の問題がこの台詞に集約されているような・・・。
医療教育の抜本的な見直しが必要な時期にきているのかもしれませんね。

(右)ジャーナリスト柳田邦男による、精神科医・前川喜作氏がガンで亡くなるまでの軌跡を克明に追ったドキュメンタリー。
ガンの宣告から幾度かの転移を経て、西川医師は絶望の淵に落とされながら最終的には死を受容する境地に至ります。
自分の闘病を通して、死に向かう患者にとってのよりよい看護と医療すなわち死の医学=死学とでも
呼ぶべき分野の礎となるべく奮闘するのです。西川医師の生き様に心打たれます。

いかに死ぬかを考える事は、とりもなおさずいかに生きるかを考えることだと二冊の本は説きます。
もし私が病を得て死から逃れられなくなった時、この2冊の本は必ずや道しるべとなってくれるでしょう。

コメント

非公開コメント

08 | 2023/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール

nonogu

Author:nonogu
永香農園
福岡県福津市上西郷地区で農業をしています。夫婦二人にパートさん3人、後継者候補のアルバイト男性一人に研修生一人。主な栽培品目はアスパラ、ネギ、ホウレンソウ、ニンニク、里芋、落花生。

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR