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麦秋

2023.09.10 11:16|好きなこと
夫は洋画より断然邦画派です。
主な理由は字幕を追うのが疲れる、登場人物の感情の起伏の激しさについていけない等々です。

若い頃から洋画一辺倒で宮崎アニメ以外の邦画を敬遠していた私も、年々字幕を追うのが面倒臭くなってきました。
かと言って吹き替えで見る気はせず。それと、彼らの饒舌さと自己主張の激しさ、何にでも首を突っ込みたがる性格、
はた迷惑な正義感、所構わず銃をぶっ放す、何の前触れもなく怒り出すetc...
そういう描写に疲れてきたというのもあります。

で、現在は1940〜50年代の古い日本映画に回帰中。
小津安二郎の「麦秋」が非常に良かったので、思い切ってアマプラの+松竹に入会。
しばらくの間、古い日本映画にどっぷり浸かる予定です。

昨日「晩春」を見終えて、これに「東京物語」を加えた紀子三部作と呼ばれる小津安二郎作品は全部観ました。
いずれの作品でも主役は市井の人々。大きな事件もなく、静かに物語は進んでいきます。
そんな中で生まれた小さなさざ波をきっかけに、まとまっていた家族は離ればなれになってしまい・・・。
最後は、娘を嫁がせる老親の淋しさを描きつつ、新たな家族の始まりに希望を抱かせる終わり方。

小津安二郎映画の魅力をひとつ挙げるとすれば、美しい日本語を堪能できること。
家を出る時の挨拶は「行ってきます」ではなく「行ってまいります」。夫や親に対しては当然敬語です。
このように、小津映画では昔の日本人の折り目正しさに触れられる良さがある一方、
今の日本の現状を思うと少し切なくなってしまうのは仕方のないことですね。

ひとつ新たな発見がありました。原節子さんは日本を代表する女優であり美人女優の誉れも高い方ですが、
以前はその魅力がよく理解できず、代表作の「東京物語」でももうひとつピンとこなかったんです。
それが「麦秋」では溌剌としておきゃんで、運動神経の良さを感じさせる俊敏さもあってとても魅力的で。
「晩春」では中盤父親(笠智衆)との仲がこじれるんですけども、その時の表情に背筋が凍るような冷酷さを感じて
笑顔とのギャップにびっくりしたんです。相手を射すくめるような凄みのある顔付きでしたね。
その時に、あぁ、この人はやはりすごい女優さんなのだと思いました。

登場人物はみな演技が巧みで味があってとても魅力的なのですが、
私は「東京物語」と「麦秋」で母親を演じる東山千栄子さんにすっかり魅了されてしまいました。
包容力を感じさせるふくよかな容貌がいかにも日本の母という感じで、戦地から戻らない次男を
待ち続ける母親の心情も痛いほど伝わってきます。それに、舞台出身なので声がよく通るんですよね。
落ち着いた語り口で滑舌がよくて、台詞がすごく聞取りやすいんです。
私の中では、高峰秀子主演「稲妻」で母親を演じた浦辺粂子と並ぶベスト・オブ・ニッポンの母です。

欲を言いだしたらキリがないよ、私達なんてまだいいほうだよ。
またいつかみんなで楽しく暮らせる時が来るよ。


「麦秋」で娘を嫁がせた父親が妻に言う台詞です。
小津映画には似たニュアンスの台詞が時々出てきます。
足るを知り、日々の小さな幸せに感謝すること。

高度成長期に突き進んだ日本が失っていった美徳を愛惜し、その風景や人情を映画の中に投影したという小津監督。
台詞ひとつにも現代の私達への大切なメッセージが込められているような気がします。

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Author:nonogu
永香農園
福岡県福津市上西郷地区で農業をしています。夫婦二人にパートさん3人、後継者候補のアルバイト男性一人に研修生一人。主な栽培品目はアスパラ、ネギ、ホウレンソウ、ニンニク、里芋、落花生。

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