ゲタさん
2020.03.24 17:04|日々のこと|
映画『浮草』の中では、登場人物達がみな下駄をつっかけて歩いていた。
今では日常で下駄を履く人も少なくなっただろうけれど、あのカランコロンという下駄の音は、
何とも耳に心地良いものである。
我が家では、娘達から父への誕生日プレゼントは下駄と決まっていた。飲み屋、パチンコ屋、食堂、
歩いて行ける範囲であれば父は春夏秋冬素足に下駄をつっかけて出かけた。一年履けば歯もちびる。
父の誕生日が近くなると、娘3人でお金を出し合って近所のタケシマ靴店で父好みの下駄を見繕った。
帰省した時に、父は私を何軒かのなじみの飲み屋さんに連れて行った。ある時、いつものように下駄履き姿で
カウンターに腰掛けた父に、ママは『ゲタサン、久しぶり~』と声をかけた。『お父さん、ゲタさんって呼ばれよっと?』
私の質問を引き受けたママが、『そうよ、いつも下駄やもんね。本名知らんとよ』と屈託なく笑った。
娘といる照れもあったのか、父は店でも家と変わらず無口であった。私はママさんと色んな事をおしゃべりし、
人生相談めいた話もして、『ちゃんと仕事する人やったら大丈夫。まじめに働かん男はやめときなさい』とアドバイスをもらった。
人生の風雪をくぐり抜けて来た女性の言葉は重みがある。高峰秀子も、男は仕事ぶりを見るにしくはない、
と書いていた。私もそう思う。
庭で夕涼みをする時も、丹精したさつきに水やりをする時も、私の記憶にある父はいつも下駄を履いている。
体が思うように動かせなくなり下駄から遠ざかった父が、また下駄をつっかけて歩く姿を見たい。
今では日常で下駄を履く人も少なくなっただろうけれど、あのカランコロンという下駄の音は、
何とも耳に心地良いものである。
我が家では、娘達から父への誕生日プレゼントは下駄と決まっていた。飲み屋、パチンコ屋、食堂、
歩いて行ける範囲であれば父は春夏秋冬素足に下駄をつっかけて出かけた。一年履けば歯もちびる。
父の誕生日が近くなると、娘3人でお金を出し合って近所のタケシマ靴店で父好みの下駄を見繕った。
帰省した時に、父は私を何軒かのなじみの飲み屋さんに連れて行った。ある時、いつものように下駄履き姿で
カウンターに腰掛けた父に、ママは『ゲタサン、久しぶり~』と声をかけた。『お父さん、ゲタさんって呼ばれよっと?』
私の質問を引き受けたママが、『そうよ、いつも下駄やもんね。本名知らんとよ』と屈託なく笑った。
娘といる照れもあったのか、父は店でも家と変わらず無口であった。私はママさんと色んな事をおしゃべりし、
人生相談めいた話もして、『ちゃんと仕事する人やったら大丈夫。まじめに働かん男はやめときなさい』とアドバイスをもらった。
人生の風雪をくぐり抜けて来た女性の言葉は重みがある。高峰秀子も、男は仕事ぶりを見るにしくはない、
と書いていた。私もそう思う。
庭で夕涼みをする時も、丹精したさつきに水やりをする時も、私の記憶にある父はいつも下駄を履いている。
体が思うように動かせなくなり下駄から遠ざかった父が、また下駄をつっかけて歩く姿を見たい。